ゼノの追想譚、四章です。小説家になろう様での連載は打ち切りになってしまったので、書いたやつせめてブログにでも供養するかとちょこちょこと。推敲は何度もしました。でも今全体のプロットを練り直しているので後で一部修正かけるかもしれないです。
第2部 第四章/前『始まりと終わりの約束』
眩しいばかりの夕焼けだった。
紅に染まった野山を駆け抜け、私は盗まれた宝剣を探して例の場所を訪れた。
『白の民どもに、〈光蝶の剣〉が奪われた。宝剣の守り手よ。急ぎ蛮族どもから竜神殺しの剣を取り戻してこい』
そう命じられて、幾日が経っただろう。
幸い、この千里眼があるおかげで少ない情報でも辿り着くことが出来た。
木々の上から灰色の建物を見下ろし、私は千里眼を使う。
中にいるのは白衣を着た男女と武装した戦士が数十名。高い外壁に阻まれた、大小混じりの部屋がずらりと並んだ大型施設。白の民たちが『研究所』と呼ぶ建物だ。
ここでは星霊──私たちが光蝶、あるいは精霊と呼ぶ存在の観測・分析を行っていると聞く。
近隣の村から仕入れた情報によると、魔族を使った非人道的な実験を繰り返しているという。ひと月前も南のユーハルドという小さな魔族の集落が陥とされたと耳にした。
そして、そこの魔族たちは全員この施設で飼われている、とも。
「さて、行くか」
私は日没の闇に乗じて建物へと侵入した。
結果は、……失敗だった。
「侵入者だ! 探せっ!」
(面倒だな、嗅ぎつけられたか……)
施設二階の明かり窓。そこを叩き割って入ったのが悪かった。割れる窓ガラスの音を聞きつけ、集まってきた奴らの怒声が耳に突く。私は身を隠して長い廊下を進み、武器──銃とかいう銀色の筒を手に持った敵をやり過ごして考える。
(このまま遂行してもいいが……)
里長には、白の民に目撃されずに戻ってこいと厳命されている。
だから見つからないよう慎重に進んだつもりだったのだが、まぁバレた。
しかし見つかってしまったものはしょうがない。ほとぼりが冷めるまで、どこか潜伏できそうな場所はと、あたりを見回す。
「扉……か?」
壁と同じ乳白色をした無機質なドア。取っ手がない。どうやって開けるのだろう。
あたりを警戒しながら扉らしき壁に手を伸ばすと、触れる前にシャッと音を立てて横に動いた。驚いた。触らずとも開くとは、どういう仕組みなのだろう?
私が中に入ると壁は勝手に閉まり、開いたときには点灯していた緑の光が消えていた。
(月……)
ずいぶんと広い部屋だ。
天井には大層無防備な大窓がついている。侵入者の自分が言うのもなんだが、ここは上部の警備が手薄だ。風の魔法で上から入ればご覧の通り、簡単に侵入できる。
(庭園か?)
靴音を消して歩く。暗くてよく見えない。目を凝らすと花畑が見えた。
室内庭園というやつだろう。
手入れされた花々が、静かな微風に揺らされて、心地のよい音を奏でている。それらを視界に収めつつ、私は庭園奥の出入り口へ向かって歩いた。
「──あなた、誰?」
ふいに、女の声が聞こえた。女といっても少女の甲高いそれだ。凛としていて、よく通るその音に、私は足をとめて首を巡らせる。
──いた。
白い花畑の中に佇む緋色の髪をした小柄な少女。
腰まで覆う長い髪。頭頂部でぴょこんと立った、ひとつの跳ね毛が少々間抜けな印象を醸し出している。薄水色の変なワンピースをまとった十五歳前後の大人。……いや、白の民でいえば十歳ほどの容姿をした子供が立っていた。
(赤……)
あどけない顔に嵌まった瞳は髪に劣らず燃える赤。炎の色をした少女は、おそらく白の民が『魔族』と呼ぶ存在。──私たち、赤の民の同胞だろう。
私が顔だけ向けると、たたたっと、少女が走ってきた。大きな瞳で興味深そうに私を観察している。
こちらが黙っていると、首をかしげて訊ねてきた。
「んんん? もしかして迷子の新入りさん? ここ広いもんね。良かったらお部屋まで案内するよ」
私の前に右手を差し出す。
「? 喋れない? ……そっか、キミの村もあいつらに燃やされちゃったんだね。でも大丈夫だよ。あっちに行けばみんないるから──っていっても、セイレイジッケン? とかいうので、だいぶみんなも死んじゃったけどね」
えへへ、と哀しいのか楽しいのか、よく分からない笑みを浮かべて少女は私の手を引っ張り、歩き出す。
「行こ」
「違う」
「?」
少女が振り返る。
「ここには里長の命令で来た。あるものを回収し、持ち帰る。……迷子の新入りじゃない」
任務のことをぼかして答えれば、少女はキョトンとした顔で首を曲げた。
「あるものって?」
「言えない」
「んんー……? えっとつまり、ドロボーさん?」
「違う。我らが村の宝を取り返しに来た」
「宝⁉ えっ、すごい! どんなの? 金ぴかーな王冠とか、山いっぱいのリンゴ?」
「言えない。この手を放せ」
「わかった! じゃあ、倉庫に案内すればいいんだね!」
「必要ない」
「ねえ、キミ名前は?」
「…………」
こいつ、まったく人の話を聞いていない。
私が乱暴に少女の手を振りほどくと、「あっ」と間抜けた声が少女の口から零れた。
(ここには……、入ってこないのか?)
部屋の外から聞こえる怒声。私を探す足音が近づいてくる。しかし素通り。どうやらこの部屋に入る様子はないようだ。
(なら、もう少しいるか)
花壇の端に座る。なぜか少女も私の隣に腰をおろした。
「わたし、シェリアリーゼ。ユーハルド村の族長の娘。キミは?」
「………………」
「あ、なにか食べる? クッキーで良ければ持ってるけど──ほら、可愛いでしょ? 動物の形をしてるんだよ」
「いらない。それからそれ、食べないほうがいいと思うよ」
「なんで?」
「毒入りだから」
「毒ぅ⁉」
半分ほど口に含んだ菓子をブッと吐き出すと、少女は慌てた様子で『水、水……』と咳き込んだ。しかしすぐに『あ、大丈夫だった』と言って、少女は笑った。
「わたしね、毒には耐性あるんだ」
「耐性?」
「うん、竜神の祝福。出されたものは好き嫌いせず食べましょーっていう制約と引き換えに、状態異常の解毒と無効──つまり、毒とかお酒とかに強いんだ。薬が効かないのは難点だけど、とにかく元気ってことだよ」
「そう」
「キミは? どんな祝福を持っているの?」
「………」
無視すると、少女はぷくーっと頬を膨らませて勝手に話し始めた。
「ここね、セイレイジッケンっていう、研究をしているんだってさ」
「そう」
「でね、赤の民を使うとそのセイレイジッケンが成功しやすくなるんだって。だから私の村も狙われて、みんなセイレイジッケンに使われちゃったの」
左胸の上に手を滑らせ、少女は目を細めた。
「わたしもね、心臓に変な石を入れられた。この石を埋め込まれた人は魔力が暴走して化物になっちゃうんだ。ここの人たちは、わたしのことを久々の成功体だって言ってたけど、きっとわたしもいつかあんな風に化物になっちゃうのかな……」
下を向く。弱弱しい声。
だから、なにが言いたいんだ?
私にはおよそ読み取ることのできない感情を抱えているらしい少女は、膝を抱えて顔をうずめた。その瞬間に少しだけ少女の未来が垣間見えた。
「──大丈夫だと思うよ」
「え?」
「ここに居る限り、キミは化物にはならない。貴重な成功体として厚遇され、限られた余生を過ごせるはずだ」
「そうなの? もしかしてキミ、未来が視える祝福とか持ってるの?」
「………」
「むぅ……、まただんまり。べつにいーけどー」
少女はすねた様子でふたたび膝を抱えた。
「でもそれって、ここから出たら化物になっちゃうってことだよね? やだな。ずっとここに閉じ込められるなんて……。わたし、白の民は嫌い。同じ人間なのに魔力を持っているからってわたしたちのこと『魔族』だなんて呼んでひどいことするんだもん」
「そうか」
「でもね、ここの人のたちは嫌いじゃないの。確かにセイレイジッケンは痛くて苦しいけど、終わると頑張ったねって頭を撫でて褒めてくれるんだ。おいしいお菓子だってくれるし、花が好きだって言ったら、ここを好きに使っていいって種もくれた」
少女がポケットから小さな種を取り出す。
「ゼノスの花。わたしのいちばん好きな花なんだ。雪みたいに白い花なんだけど、中心が太陽の色をしててね。咲くと綺麗なんだ。キミの髪と瞳と同じ。もしかして、キミの名前もゼノスっていったりするのかな?」
「さあね。それよりも、私はもう行く。邪魔したな」
「あっ……」
どこか残念そうに漏れ出た吐息に背中を向けて私は室内庭園を去った。
それからすぐに施設を出た。その日はひとまず近隣の森に潜伏し、翌日ふたたび例の研究所へと向かうことにした。
森の中に入るとベルルーク──私の従兄に当たる男が鍋を囲ってたき火をしていた。
「戻ったか。ほれ、食うか?」
「いらない。それより火を消せ。敵に気づかれる」
「問題ねぇよ。結界、張ったからな」
言われて、上空に目をやれば薄い水の膜。ここら一帯をすっぽり包み込むように、水でできた結界が半円状に展開されている。ベルルークが得意とする水の魔法。これなら煙も外には出ない。私は丸太に腰かけると、焦げた魚の串を手に取った。
「どうだ、剣はあったか?」
ベルルークが椀を差し出す。受け取り、口に含めばキノコ汁のようだった。紫とか緑とか、色彩豊かなキノコが入っている。私は口に含んだ汁を吐き捨て椀を地面に置いた。
「わからない。けれど、あるとは聞いた」
「あ? まさか奴らに聞いたのか? 里長に言われてんだろ、白の民に姿見られんなって」
「見られていない。赤の民の娘に聞いた」
「娘? ……まさか、例の実験体か?」
「さあな。もう寝る。それからそれは食べないように」
鍋を一瞥してから毛布にくるまり横になる。ベルルークがなにか言っているようだが、構わず私は目を閉じた。
一晩考え、思ったのだ。
『目撃されずに戻ってこい』
それはつまり、皆殺しにして帰れば目撃者は誰もいないということだ。
最初からそうすれば簡単だった。私は正面入口から研究所に乗りこみ、立ち向かう白の民たちを殺して回り、宝剣を探した。
「だから食べるなと忠告したのに」
宝剣探しの任でともにこの地に赴いていた従兄は食あたりで倒れた。
キノコの食中毒。湖の乙女がどうのと言っていたから、幻覚系の毒キノコにでも当たったのだろう。解毒薬は作ってやった。少し副作用はあるが効果は抜群。きっと今頃は、激しい腹痛に悶えながら退路の確保をしているはずだ。
ふと、視線を感じた。顔を上げれば天井の端、四角い筒を見つけた。
「あれは……、なるほど。あの筒で監視しているのか」
監視カメラ、というらしい。
知識程度に頭には入れていたが、実物は初めてみる。
興味はない。ただ、あれがあったら壊せと里長から指令を受けている。
さらには監視室。カメラに映る情報を集めた場所がある、とも聞いていたので、探し出してそこも破壊。その過程で何人の白の民を屠っただろうか。血が滴る杖を振るい、赤いしずくを払い落す。
「またここか」
道が入り組んでいて分からない。『眼』を使えばすぐに場所は分かるが、そう日に何度も使うものではないし、里長から使用は極力留めるよう命じられている。
だから手当たり次第扉を開いたら、きのう訪れた室内庭園に辿り着いた。
「……まあ、いないか」
さきほどから耳障りな騒音が鳴り響いているのだ。警報とかいうやつらしいが、これだけ騒がしければあの少女も自室かどこかにいるのだろう。
さすがに同胞にまで手をかけるつもりはない。里長にも怒られる。邪魔さえしなければ、放っておいても構わない。そう思ったのだが──
「あ! きのうのドロボーさん!」
赤い花を手にした少女がぴょこっと花壇から顔を出す。小柄な体躯のせいで、丈高い花の影に隠れて気づけなかった。
「今日も来たの? あ、だからケイホーが鳴ってるのかー。ダメだよ? ここは侵入者が来ると、光の糸みたいのがビーッと出て、触ると真っ黒焦げになっちゃう危ない魔法があるんだから」
「光の糸? ……ああ、あれか。あれは単なる星霊学とかいう魔法の猿真似だろう。大したものじゃないよ」
「うへぇ、あれを猿真似呼ばわり……。キミ、見かけに寄らず強いんだねぇ」
少女は花壇から出てくると、私の前に立った。
「聞いたよ? キミ、北の地から来たセイレイ剣の守り人さんでしょ? ここの人たちが話してた。セイレイ剣ならこっちにあるから、ついてきて」
「……星霊剣?」
「うん。魔剣にセイレイジュ? をつけてパワーアップさせたーって言ってたかな。ちなみにセイレイジュってのは、わたしの心臓に埋め込まれてるやつと同じものだよ」
「星霊樹……いや、星霊珠か。そういえば、白の民が作った『星霊石』とかいうやつがあったな……。たしか半貴石に光蝶を閉じ込め、台座となる道具に強制行使の呪文を刻んだものを魔導品と呼んでいると聞いているが、それの類品か?」
石に囚われた光蝶は消滅するまで力を吸いつくされる。私に魔法を師事してくれた先生が、あれは在ってはならない禁忌の道具だと話していた。
「んー……、なんかね。ジンコーてきにセイレイを作って宿した宝珠だって言ってたかな? セイレイセキよりも丸くてキラキラしてて、すごい力を秘めてるんだってさ」
「人工的……なるほどね」
方法は分からないが、人工的に精なる存在を作り出し、それを宝珠に閉じ込めた、といったところか。星霊石が単純に光蝶を閉じ込めたものなら、星霊珠は新たに作り出した神秘の存在を宝珠に宿したもの。その違いは調べてみないと分からないが、まあいまはそんなことはどうでもいい。
私は少女の説明を流し、その星霊剣とやらの在処を聞き出すことにした。
「それで、それはどこにある」
「ふっふっふっ、どこにあるでしょーか!」
「……」
聞くだけ無駄なようだ。
腰に両手を当ててすまし顔。得意げな顔をする少女に私が無言で立ち去ろうとすると、今度は慌てた様子で服の端を掴んできた。
「待ってってば! 冗談だよー、そんなに怒らないでよー」
「怒っていない。ただ見ての通り忙しい。お前も私の邪魔をするというなら殺す。教えるなら早くしろ」
「ええー……、それが人に物を頼む態度なの……」
けっきょく、ついて来られても邪魔だからひとりで行くと言ったが、案内すると言って聞かないので私は渋々少女のあとをついていくことにした。
ちなみに途中で、なぜそこまで案内したいのか、お前にはなんの得もないだろう。まさか私を差し出し、奴らから褒美をもらう魂胆かと訊ねたら、「違うよ」と苦笑された。
「キミのことが心配だから助けるの。このままここの人たちに捕まったらキミまでセイレイジッケン行きでしょ。わたしはキミが死ぬところなんて見たくないもん」
「意味がわからない」
心配だから助けるとか、私が死ぬところを見たくないとか。
そんな変なことを言うのは私の魔法の師匠──ユノヴィア先生くらいだ。ましてや出会ったばかりの奴がどうなろうと彼女には関係ないだろうに。
「あ、あそこの扉だよ」
揺れる赤毛の髪を追いながら、変わった奴だなと思っていると、『第二研究室』と書かれた部屋に着いた。少女が壁に手を伸ばすと、触れる前にシャッと音を立てて壁が動いた。入室すると勝手に閉まる。『カメラ』といい、『センサー』といい、本当にこの建物には珍妙な仕掛けが多い。
少女は小走りで部屋の中央まで行くと、ぴしりと人差し指を台座に向けた。
「ほら! これがキミの探している剣じゃないかな!」
四方を乳白色の壁に囲まれた、そこそこ広い部屋だった。
「う………」
やたらと眩しい光源だ。白色の光に思わず目がくらむ。薄くまぶたを開けて指の隙間から明るい室内を覗けば、無駄なものが一切なく、殺風景とはまた違う、不思議な造りをしていた。
天井から伸びた無色透明なガラスの筒。その中に、探している剣はあった。
部屋の灯りに負けないくらいのまぶしい光を放つ黄金色の刀身。柄は赤く、筒の隣に置かれた深紅の鞘には金の装飾が刻まれている。しかし──
「これは……、なんだ?」
抜き身の刀身の、柄に近い部分。光蝶の形を模した鍔の手前にはめ込まれた虹色の宝珠。私の記憶の中にある竜神殺しの剣にこんなものはついていなかった。
一瞬だけ眉をひそめて、すぐに理解する。
「そうか、これが星霊珠……」
「そうだよ。きらきらしてて綺麗でしょ? 大きな真珠みたいだよね」
少女も一緒になって筒の中をのぞきこむ。その隣で私は筒の側面に拳を叩きつけた。
「うひゃあっ!」
ガシャンと耳を突く音。ガラス片が床へと飛び散る。その際少し欠片が頬をかすめたが、気にせず中のものを掴んで引きずり出す。
回収完了。早々に退散することにしよう。
私が踵を返すと、抗議めいた顔をして少女は私の行く手を遮った。
「ちょっとキミ! 危ないでしょ⁉ いきなりこんなことして怪我したらどうするの──って、頬から血が出てるしぃ!」
蒼白顔。裏返る声。少女は服のポケットから小さなタオルを取り出すと、私の頬に優しく押し当てた。痛そう、とかなんとか言っている。
「ここから一番近い出口は?」
「……キミってほんと一切の無駄がないよね」
誉め言葉として受け取っておこう。
「うーん、とね。そこの正面の扉を出てまっすぐ進むと、キカイ? とかいうのを運ぶための大きな玄関があるって聞いたけど、でも多分さっきのケイホーで強制的に閉まっちゃってると思うよ」
「問題ない。魔法でこじあける」
「無理だよ。ここの施設の出入り口は魔法を無効化する扉でできてるんだから、魔法じゃ開けられないの。だからみんな逃げられなかったんだよ」
「なるほど、そういうことなら別の道をさが──」
言いかけて、正面のドアが開いた。
入ってきたのは白衣を着た若い男だった。明るい茶髪。柔和な面差し。白の民が開発した視力を矯正する道具──眼鏡をかけた青年は、私の手に握られた宝剣を見て表情を強張らせた。
「そうか、君が剣の守り人の」
「……」
「悪いけど、それは返してもらうよ」
鈍色の筒、銃口を向けて青年は私の隣に視線を移した。
「シェリーちゃん。その子供に手を貸したことは見なかったにしてあげるから、こっちにおいで」
「マーナ博士! だめ、撃たないで! この子は悪い子じゃないよ!」
「わかっている。盗まれたものを取り返しに来たんだろう。だけど、それを見逃すことはできない。その剣は、僕たちに必要なものなんだ!」
パンッと乾いた音が鼓膜を震わせる。水晶の弾が床を穿ち、放射状にヒビが入るのをちらりと一瞥して青年は告げた。
「次は当てる。それを置いて直ちに立ち去ってくれ」
「ど、どうしよう⁉ あれすごく危ないんだよ! 多分、それ置いたほうがいいよ。はやく、はやく」
少女が慌てた様子で私の手から剣を取り上げようとする。それをひらりと躱し、私は軽く杖を振るった。
「『風よ、切り裂け』」
杖から風の刃が舞い飛ぶ。青年の胴体を切断するつもりで放ったのだが、少女の邪魔が入り軌道が逸れ、青年の隣の壁を壊した。
「なにをする」
「なにっていま博士のこと殺すつもりで放ったでしょ! そんなことしたらダメだよ!」
「……ちっ、うるさい女だな」
「ひどい! 聞こえてるよ⁉」
胸中で文句を吐いたつもりだったが声に出ていたようだ。青年は、そんな私たちのやり取りを見ると、なぜか哀しそうな顔をして銃口を降ろした。
「その剣を置いていくなら出口まで案内する。君の命は保証しよう。さあ、早く。あまり時間がないから急いで」
「──それはまた、関心しないなぁ、マーナ博士」