第4話続き(約3000文字)
「大きいですね!」
「そうだね…………」
アルヴィットたちは現在、突如出現した巨大モグラの対応に追われている。大きさはおよそ三メールくらいか。巨大というほどでもないかもしれないが、それでも大人ひとり分よりも大きいその姿はもはや脅威でしかない。
「もうあれクマだよね?」
「いやー、あれはヌシじゃのぅ」
「ヌシ?」
「懐かしいのぅ。昔はな、あれくらいのモグラをよく見かけたもんじゃ。なるほどそれで大量に現れたんじゃな」
「え、昔はあんなでかかったの?」
「うむ。あれはダイオウモグラといってな。群れをなすモグラなんじゃよ。少々狂暴での、ひときわ大きいヌシを筆頭に、子分のモグラたちが牧場なんかを食い荒らしていく。ほれ、さっきのやつらもいつものモグラより毛並みが茶色かったろう?」
「あーまぁ確かに?」
特に違いが分からなかった。そもそもモグラはみんな茶色の毛だ。
とはいえ、村長が言うようにヌシを筆頭に子分らしきモグラたちも増え、畑はさながら戦場と化していた。
「補佐官殿! はやく退治しましょう!」
「退治ね……」
退治と言われても、正直よい策が思いつかない。どうしたもんかと頭を悩ませていると、ヌシがこちらへやってきた。
『ギィ────!』
(こわっ)
ヌシは威嚇したかと思うと、アルヴィットたちに向かって鋭い爪を振りおろしてくる。
「危ない!」
アルヴィットが村長をかばうと、カイルが剣を抜きヌシへと斬りかかる。
「おふたりをやらせるか────!」
『ギュュ──‼』
カイルの斬撃を避け、ヌシは土の中へ潜っていく。そしてすぐに近くの穴から顔を出し、こちらを威嚇する。
『ギー、ギー』
「く、素早い」
すぐに剣を構えなおしたカイルは、モグラの元へ走り一撃をくらわす。
「やった!」
しかし、カイルが喜ぶのも束の間。その背に叱責が飛ぶ。
「これぃ! ばかもん!」
「えぇ⁉」
村長が怒鳴り、カイルが驚く。
「カイル! モグラは傷つけるな、役人に怒られるぞ」
そう、モグラは国の保護動物だ。命を奪うと罰金を取られる。しかも結構高めの。
「なぜですかー!」
腑に落ちない、といった表情でカイルは地面から顔を出すモグラと対峙している。
「昔、モグラの毛は高値で取引されてたんだよ」
ヌシが暴れ、心なしか地面が揺れる。
「その結果、乱獲が増えて一時期数が減ったらしい。で、モグラに会っても殺すなっつう、……二代前の王だったか? 国令が出たんだ」
「えぇ⁉ でもこっちが食べられそうなんですけど!」
グワーッと口を開いたヌシがカイルを襲う。それを助けようと他の親衛隊たちが持っている鍬でヌシを叩いている。もちろん、刃の部分を逆さまにして。
「な……ほんとな、理不尽だよね」
国というのは、たまに変な布令を出す。
(しかし困ったな。このままだと死傷者が出かねない……)
ヌシと格闘するカイルたちを見て思う。モグラごときで死んだとあれば、騎士としては末代までの恥だ。流石に王子の親衛隊である一同にそんな不名誉は与えられないし、何より城内で嘲笑の的にされては困る。
「なぁ、村長、釣り糸とか持ってる?」
「持っとるよ、ほれ」
アルヴィットの言葉に頷き、ポケットから糸を取り出す村長。長さは充分。数百メートルはあるだろうそれを受け取り、カイルへ声をかける。
「カイル、この端持って」
「糸……? ですか?」
「そう、これでまぁグルグルっとな。お互いにこれを持ってアイツの周りを走れば、うまく巻き付くだろ?」
安易な策ではあるが、糸の両端を互いに片方ずつ持ち、カイルは時計回り、こちらはその逆を走る。そうすることで簡単にヌシを拘束できるというわけだ。
「おぉ! 流石は補佐官殿! まさに奇策ですね」
「いや……奇策つうか……うまくいけばだけどな?」
「大丈夫です! お任せください」
そう言ってカイルは糸の反対側を持ち、モグラの元へ走る。それと同時にこちらもぐんっと引っ張られ、体勢が崩れる。
「おわっ、ちょ、まっ──」
「補佐官殿! お早く!」
カイルに促され、ヌシの近くまでやってくる。
(これは……)
柔らかそうな毛並みに、つぶらな瞳。意外と可愛らしい姿をしている。
(あぁこれで、でかくなければ……)
やはりクマくらい、というか成人男性よりも大きいヌシは最早害獣の域だろう。
「では、補佐官。私は左に走りますので、向こうからお願いします」
「任せろ」
カイルが走り出すのと同時にこちらも全力で走る。地面から半分身体を出し、攻撃してくるヌシをかわしつつ、糸を巻き付けていく。
『キシャ──‼』
「もうちょっとだ、カイル!」
「はい!」
ヌシはというと、最初こそ暴れはしたが、腕やら爪やらに糸が絡み、身動きが取れなくなったらしく次第に大人しくなっていった。
『キュ……きゅぅ……』
(ふ、ざまぁみろ。俺がいるときに畑へ来たのが、お前の運のつきだ!)
モグラ相手に勝ち誇ってどうするんだ、という話ではあるが、地面に潜りたくても動けない、そんな状態からうまく拘束が進み、つい気がゆるむ。
そこに──
「アルヴィット」
家にいたはずの王子が、こちらへ向かって走ってくるのが目の端にうつった。
「は、まずい──」
こちらはヌシにかかりきりで、他のモグラに対応できていない。そちらは親衛隊や村人たちが駆除してくれてはいるが、その間をかいくぐり、王子へ飛びかかろうとするモグラがいた。
『ギ!』
「王子! モグラ!」
「な────っ!」
「させない」
間一髪。王子の後ろを走るフィーがモグラに体当たりをくらわせる。
『ギュぎゅぅ……』
モグラは弾き飛ばされ、床に転がり気絶した。
(危なかった……)
だが、その瞬間。
「補佐官殿!」
カイルの言葉と同時に、自らの身体が勢いよく倒され、固い地面の上をザリザリと引きずられる。
「ちょっ、えぇぇぇぇぇぇぇ⁉」
どうやら王子に気を取られている間、わずかに緩んだ拘束から逃れるため、ヌシはその身を回転させ、穴へと潜ろうとしたらしい。その反動で、こちらもズルズルと手に巻き付けていた糸を通して、身体が引っ張られる。
「補佐官殿、糸! 糸放してください」
「分かってるけどっ」
(くそ、取れない)
うっかり糸を放さないよう、しっかり手に巻きつけていたせいで、なかなか外れない。そのうえヌシが動くたびに手が悲鳴をあげている。
(く……手がちぎれる)
ミシミシと肉へ食い込む感覚に、嫌な想像が頭を駆け巡る。
そんな最悪な状況につい叫んでしまう。
「あー! もう誰か、このバケモン何とかしてくれ‼」
すると、
──ズドン‼
まるで。自身の祈りが通じたかのように、天から光が落ちる。
『ギュ──────‼』
落雷はヌシの巨体を貫き、その身をゆらりと地面へと崩れさせた。
「────っ!」
雨雲ひとつない、晴れた空。
そこには、太陽に照らされ透き通った白羽を持つ、天駆ける馬が佇んでいた。
(つづく!)
ここが戦闘パートだったら、アルヴィット使えなさすぎる。