第一話 上のつづき (約8000文字)
2022/6/18改稿
──バン!
机が大きく揺れる。
「兵が出せない⁉ ふざけるな!」
「そう言われてもな……我々も急に配置を動かすわけには……」
アルヴィットは軍部に来ていた。勿論、王子を救出するために。
しかし、軍はそんなことは知らんと言わんばかりの塩対応だった。
「大体、兵を出せないとは言っていない。非番の者を呼び寄せると──」
「同じことでしょう! 各地区に配置している兵を動かせばいいだけの話だ!」
「いやしかしな……」
今は豊穣祭の準備期間。当然通常より警備が厳しくなるため、その分軍の人間も忙しい。
だが、これは王子誘拐事件だ。
本来なら全軍をあげて、捜索にあたるだろう。だが違った。
(噂には聞いていたが……ここまでか)
「それは第四王子だからですか?」
アルヴィットがそう尋ねると男はバツが悪そうな顔をした。
「いくら庶民出の妃の子だからって、それは無いでしょう。この国の王子ですよ?」
──そう。王子は側妃の子だ。つまり妾。さらに爵位も持たない平民の娘だ。表向きは伯爵家の娘ということにはなっているが、書類上の話だ。噂は流れる。
「ば、馬鹿を言うな! 我々はお前たち官僚とは違う! 下らぬ差別感情など……騎士を愚弄する気か!」
(騎士ねぇ……)
王子の捜索に全力をあげないあたり、がっつり差別している。
(困った……。これ助けられなかったら俺の責任になるよね。最悪だ)
あーどうしよう、と頭痛に苛まれていたら、
「どうしました?」
思わぬ人物が現れた。
「サフィール殿下!」
男がビシッと敬礼する。
アルヴィットもすかさず跪いた。
「なにやら騒がしいようですが……何かありましたか?」
くすんだ金髪に灰色がかった緑の瞳。この長身の男こそ本来アルヴィットが仕えるはずだった王子。ユーハルド王国第二王子、サフィール・リム・ユーハルドだ。
「は! 先ほど第四王子が誘拐されたとの報告が入り、急ぎ調査中でございます!」
(コイツ、今さらっと嘘ついた)
急ぎも調査も何もしていない。
「なっ! 弟が……⁉」
サフィール王子は王子誘拐事件などというまさかの報告に驚いているようだ。まぁ当然だろう。
「それで状況は! 今どうなっている」
「それがその、捜索部隊を集めているところでして詳しいことはまだ……」
「何をしているのですか! 急ぎ各地の警備兵を集め、王都全域を探しなさい」
「はっ!」
男はバタバタと走っていき、サフィール王子はその場の兵たちに指揮を出し始めた。
「アルヴィットじゃないか」
(げっ、緑……)
サフィール王子のすぐ後ろに控えていた、緑髪の青年が話しかけてきた。
「話には聞いていたが、本当にライアス殿下の側近とは驚いたよ」
「まーな。俺もだよ」
「まぁでも良い職場じゃないか? かの王子の補佐官じゃ、どうせ出世は望めない。今まで散々、上にヘコヘコして大変そうだったんだ。もうしなくて済む。良かったな」
(………………)
嫌味な奴。この男は一言でいうとそういう男だった。
──ペリード・ラン・ベルルーク。侯爵家の三男。三男なので本人に爵位は無く、せいぜい家名が強いくらいだが田舎者の出世が気に入らないのか、こうやってよくつっかかってくる。めんどくさい。そして同期だ。
(無視しとこう)
「こらペリード君。そういう態度はよくないですよ」
兵たちに指示を終えたサフィール王子がこちらにやってきた。
「……! 殿下! 申し訳ございません」
「全く……すみません、私の補佐官が迷惑を」
そう言って彼は頭を下げる。
「殿下!」
「サフィール殿下っ、そのように謝っていただくことなど何も」
「いえいえ、部下の不手際は私の責任ですから。それに、今回の豊穣祭は私が警備を担当していましてね。ちょうどこの時間帯は貴族出身の軍人が多い。彼等の中にはライアスを良く思わない派閥もいるので困ったものです」
(なるほど。道理でやる気がなかったわけだ)
「あぁそういえば貴方のことは聞いていますよ。名前は確か……ラーツ殿でしたか? とても優秀な文官で、私の補佐官に付いてくれる予定だったとか」
(潰えた話だけどね)
「でも良かった。貴方が弟についてくれるのなら彼の立場も少しは良くなるかもしれない。我儘な弟ですが、あれでも優しい子だ。どうかよろしくお願いします」
キラっと光る王子様スマイルを残し、サフィール王子とペリードは去っていった。
(良い人!)
感動した。なんと礼儀正しいことか。ウチのも見習ってほしい。そんなこと考えながらアルヴィットは急いで軍部を後にした。
外に出ると、軍部の前でフィーが奇行に走っていた。
「あの……何をしてるのかな?」
「ライアス探してる」
よく分からない。というか彼女と話すこと自体これが三度目である。
一度目は配属の挨拶。二度目は「あ、お茶飲む?」だ。勿論、アルヴィットが淹れた。
「フィー、鼻鋭い。アルヴィット遅いから一人で探す」
「いや鼻って……」
フィーはふんふんと、地面に鼻をつけ、王子を探している。
この少女は親衛隊の中で一番の古株らしく、一体何歳から所属していたのかと疑問に思う。だが、今はそんな疑問も吹き飛ぶほどの事態だ。そう、めちゃくちゃ恥ずかしい。周りが何事かと遠巻きで見ている。アルヴィットは地面を嗅ぎ回る少女をとめようか、否か悩みつつも少し距離を取って、あたりを見渡した。
「あれ? ………なぁ他の親衛隊は?」
「検問」
そう言ってフィーは二つの方角を指で示す。
(あぁなるほど。検問で賊がかかってないか、確認しに行ったのか)
フィーを除く初めにいた親衛隊は五人。内二人が誘拐未遂の犯人を連行。一人は母親探し。恐らく残った二人が北と南の門へ行ったのだろう。
「検問か」
列を成す行商人、荷物を確認する兵士たち。
(そういえば……)
〝一部を除いて全部の荷車調べるから──„
「あ!」
「?」
「なぁ、フィー」
────検問しない荷車って何だと思う?
──ジャラジャラと反響する音。
振動によりあちこち飛び回るソレ。
普段は気にも止めないだろうその響きも、ここまで近くで鳴れば、気絶から目を覚ますほどに十分な騒音だった。
「うるさい。暗い。そして痛い……」
ライアスは箱の中にいた。
路地から出た瞬間、突然何かの薬品を嗅がされ、そこからの記憶がなかった。
「どこかの行商か? 大量の銀貨を運んでいるようだが……」
目の前の硬貨を一枚手に取ると、隣国の紋章が刻まれていた。
「シーイオ……通貨商の車か」
──通貨商。国内外の通貨を扱う機関であり、市場が動くこの時期は一日に何回か地方行きの馬が出ている。
「ふむ……なるほど。そういえば通貨商の荷車は検問を素通りできると聞いたことがある。つまり余は誘拐され、どこかの地へ運び込まれる最中か」
誘拐されたにしては随分と落ち着いているライアス。
それもそのはず。彼にとって、そんなことはどうでもいいことだからだ。
「ま、余が居なくとも誰も悲しまぬ。むしろ税の無駄が減ったなどと喜ぶやつも多かろう」
そんなことを呟きながら、ライアスは最近入った新人補佐官のことを思い浮かべる。
──一番初め、どんよりと沈むその顔を見て、あぁこれは三日も持たないなと思った。なぜならこの辞令は、優秀だが身分の低い者、権力者の怒りをかった者への左遷通告だから。つまり、『王子の補佐官』という大役は与えるが出世コースからは外されるということだ。
だというのに、例の補佐官はそれを知ってか知らずかいまだにやめていない。
「左遷されてもなお、頑張るとは馬鹿なやつよな」
まぁ余には関係ない話だ……と箱から脱出する方法を考えていると──
「敵襲──!」
突然怒号が飛び交った。同時に車体が大きく揺れ、硬貨の波に押しつぶされる。だがそれはすぐにおさまり、暗い箱の中に光が差す。
「──ライアス。助けに来た」
「いいかフィー、俺が合図したら荷台へ飛べ。そこで王子の箱を探すんだ」
「わかった」
遡ること数十分前。アルヴィットは王子直属の親衛隊を全員集め、この王都近くの草原にやってきた。たかだか十数名の人数だが、それでも、賊を捕らえるくらいにはみな鍛えている。そして現在、王子をさらったとみえる賊に追いつき、王子救出を試みている。
「他の部隊は馬車を囲め。攻撃はするな、転倒する。王子を確保するまで走らせろ」
「はっ!」
街道を走り去る荷馬車。それを後方から追いかけるアルヴィットたち。
賊は六人。荷馬車をぐるりと囲む護衛兵に扮した男が五人。荷台にも一人。先頭の二人は恐らく役人と御者。思ったより少ない。きっとどこかで仲間と合流する予定なのだろう。
「散開!」
アルヴィットの声とともにこちらの兵が散らばり、四方から荷馬車を取り囲む。
「フィー! 飛べ!」
「ふっ」
アルヴィットの背中からフィーが飛び上がり、荷台の男を仕留める。
「くそっ! なぜ追手がくる⁉」
「急げ! 早く走れ!」
「逃がすか!」
賊は少ないとはいえ、それぞれが腕の立つ者らしく、こちらの何人かがやられた。
アルヴィットは後方に離脱しようとしたが、運悪く賊が斬りかかってくる。
(げ。俺、剣苦手!)
瞬時に臨戦態勢を取る。が、次の瞬間、男はぐらりと馬から崩れ落ちた。
その首には短剣が刺さっている。
剣が飛んできた方向を見ると、王子を確保したフィーが荷台から応戦していた。
(よくやった)
王子を助けてしまえばあとはこちらのものだ。
「王子は救出した! 総員攻撃開始!」
こうして、誘拐事件は一旦、幕を下ろしたのだった。
あれから、賊と、賊に加担しただろう役人と御者の男たちを捕らえ、現在はこの王都近くの草原にて、城へ戻る支度を含めた小休止をとっている。ここにいるのは親衛隊のみ。サフィール王子の部隊は各地区にて封鎖令をしいている。
「王子。危ないところでした。お怪我はありませんか?」
木箱の上に座る王子へ声をかける。
「怪我は無い……が、遅い。助けるならもっと早くせよ。もう少しで余はいずれかへ売られるところだったぞ」
「……………」
遅くてすみません。後ろの兵たちから、そりゃないよという空気を感じる。
「王子。王族の誘拐となれば国の一大事。下手をすれば他国との戦争もあり得る話です。ゆえに、ことは慎重にかつ迅速に、みなで王子の救出につとめた次第です。それをそのように仰るのは……」
精一杯のつくり笑顔で言う。眉の上がピクっと動く。我慢だ。
ふぅーと溜息をつく王子。
「別に助けよとは言っておらん」
そう来たか。
「仮に此度の件が国内の謀であれば、首謀者を捕らえ処罰すればよし、他国が介入していたとあれば父上や兄上達が上手く交渉する。何も問題ない」
(そりゃそうだろうけどさ……)
「それに……」
と、暗い顔をする王子。
「余が死んだところで誰も困らん。兄上達とは違い、何もできぬ王子など、居ても居なくても同じことよ」
「……………………」
…………何なんだろう。この卑屈王子は。
暗い箱の中にいたからだろうか、心が沈んでいるようだ。
そこにフィーが駆け寄る。
「ライアス、違う。死んだらフィー悲しい。リーアも泣く」
リーアとは誰だろう。フィーがふるふると頭を振っている。
「フィー……」
その様子は誰かを思わせる嫌な感覚で、アルヴィットの脳内をグルグルと駆け巡る。
(こういうの既視感っていうのかな)
‶──オレが死んでも誰も困らない。
──今日も役立たずって言われてよ。お前はいいよな、頭がよくって。頑張って将来俺たちを楽にしてくれ
──まぁでも、下のもんがどう足掻いても上にはいけねぇ。お前もいつか父さんの苦労が分かるだろうさ〟
(…………………………………)
「……よいのだフィー。そんなことで悲しむ必要はない。余が死んだからといって、日常が変わるわけではない。悲しむだけ無駄なこと。意味などない」
それは違う。確かに日常は変わらない。だけど、その死を悼むものがいる。
(そうだ、あんな奴でも泣いてくれる家族がいた)
「ライアス……」
フィーが悲しげに呟く。
だから、なんだろう。その姿が重なって、きっと、腹が立ったのかもしれない。
バシン────‼
──場の空気が冷たく凍ったような、気がした。
『悲観を口にする暇があるのなら、現状を変える努力をするべきだ』
それが、ライアスの補佐官──アルヴィットの持論だ。
彼は不満だけ吐いて、現状一つ変えようとしない人間が大嫌いだった。
何故なら父親がそうだったから。
彼の家は王都から遠い田舎にある。
家業は農業。食うには困らないが、貧しい、だけど穏やかな暮らし。そういう家で育った。
だけど父親はそれでは満足しなかった。
家業を放り出し王都で働き、たまに帰ってきたと思えば酒に溺れ、世の不条理を嘆くだけ。
だから小さいながらに思った。
こんな大人にはならないように、と────
「な…今…余を殴った──?」
ざわざわと騒がしくなる草原。
それもそのはず。臣下たる者が主君の頬をぶったから。
目の前の補佐官を捕らえるか否か、兵たちの間で意見が揺れている。
「ふざけんなよ…………」
だが、当の本人は周りの声など耳に入らない。
「何が何もできぬ王子だ! 卑屈なこと言ってんじゃねぇ!」
あまりにも悲観的な主に。
「何もできないなら、できないなりにできることを探せよ!」
かつての父親の姿が重なって。
「上が優秀だって悲観するなら、得意分野で兄貴達を超えろ!」
あるいは日々の鬱憤が決壊して。
「位の低さだって、そんなもんいくらでもひっくり返せる!
なのに……さっきからグダグダグダグダと……………!」
あぁぁぁ──‼ と彼は頭を抱え、憤りをあらわにした。
そして、ビシィっと己が主に指を向ける。
「いいか王子様! 古今東西、王位継承権の低い者が王座につくことなんざ、ザラにある。四番だからって別に遠いわけじゃあない。
大切なのは成し遂げる意志! 現状を変えたいという強い心だ!」
「いや……別に余は王座など……」
「いいや、なってもらう! 俺はいずれこの国の王佐になる。だからあんたには王になってもらわないと困る!」
「……王佐? そなた平民であろう? 庶民がなれるわけがない。なぜそのような無謀なものを目指す」
赤く腫れた頬をさすりながらライアスは疑問を口にした。
「──無謀だからさ」
「何?」
「平民が王佐なんて無理に決まってる。普通はなれない。だからこそ成し遂げた時、希望になる」
「希望……?」
「そ、周り……へのな」
そう言って、彼は遠くをみやる。その先にあるのは自身の故郷か。
「とにかくだ。俺の夢のためにあんたには頑張ってもらう、異論は認めない」
「しかし……余が王になっても誰も──」
「暗い、暗い、暗い!」
まだ言うか! と彼はうんざりしながらも、励まし代わりというか、ここ最近見てきた主君に対する感想を述べる。
「はー……。あのさ。確かにあんた、何事にもやる気ないし、我儘だし、困った王子だよ。だけど、それなりにまともだし、案外いい王様になるんじゃないかって俺は思うよ」
「余がか?」
「あぁ」
そう言って、彼は路地でのことを思い出す。
「さっき子供助けたろ? あんなの、王子なんだから、人を使って助けさせればいい。だけどあんたは自ら動いた。それはつまり、誰かのために行動できるってことだ。そーいうの、王様に大切な信念? みたいなもんだろ?」
「信念って、何もあの程度のこと」
「そうでもないさ」
彼は目を閉じて、理想の王を想像する。
物語に出てくるような、ありふれたかっこいい王の姿を。
「王は民に夢を見せるモノだ。だったら、人のために動けるかっこいい王様じゃなきゃいけないだろ? そうじゃなきゃ王様失格だ」
「夢……ってそなた……」
「なんだよ! 夢の力、馬鹿にすんなよ」
子供か──と若干引き気味のライアスへ反論する。
「いいか? 人間ってのはな、希望なしには生きられない。だからこそ、自分にも他人にも夢をみる」
そう、夢を見れなくなった人間は生きる希望も失うから。彼の父親のように。
「だから」
パン──と手を叩くと、彼は満開の笑顔で言った。
「もっと夢を持って生きようぜ。王になれるかはともかく、希望はあったほうが人生楽しいだろ?」
「──────」
──ほんの数十秒。時間が止まった。
ライアスはハッとした表情で固まっている。
それは恐らく、バカみたいなことをあっけらかんという相手に毒気を無くした、という感じだろうか。
さぁーっと風が草原を駆け抜ける。
そしてやっと。呆れた様子でライアスが口を開いた。
「はぁ……。夢に生きろとはそなたも酔狂な男よな」
「いや夢に生きろつうか、夢を──」
「アルヴィット。
そなた、本気で余が王になれると思うのか?」
自身の補佐官の言葉を遮り、ライアスは真剣に、まっすぐな目をして彼に問いかけた。
その問いに彼は自信を持って頷く。
「──当然」
当たり前だといわんばかりに、ニッと笑って。
「俺があんたを王にするんだ。だから安心して夢の一つでも見とけ!」
ライアスは小さく笑って、そうかと呟く。
そんな二人のようすに、場の雰囲気も解け、兵たちは帰り支度を再開する。
「……さて、さっさと城へ戻るぞ」
木箱からぴょんっと降りるライアス。
「あぁ、待って」
彼はそれをとめる。
「なんだ? また説教か? 言っておくが、さっき殴った分は減俸だからな」
「……その節は誠に申し訳ございませんでした」
即座に片言で、真摯な態度で謝る補佐官。不敬罪で取り押さえられなかっただけありがたい話だが、減棒もそれはそれで困ることだ。
謝ったのち、ごほんと、わざとらしく咳払いをして、主君に説教……いや諫言をする。
「人間関係で一番大切なこと。貴方の補佐官として、はじめにこの言葉を教えたい」
それは、基本中の基本。幼子でも使える、始まりにも終わりにもよく使う言葉。
「………つーわけで」
彼はその場に跪き、
「まずは〝ありがとう〟から始めましょう、ライアス殿下」
そう言って、右手を差し出す。
そんな様子を。
感謝の一つも言えない王など臣下が離れていきますよ?
などと小言を言う、補佐官を見て。
ライアスはフッと笑い、
「そうだな。ありがとう。そなたたちのおかげで助かった」
差し出された手を握り、素直に気持ちを伝えるのだった。
──数日後、執務室。
「王子!」
「なんだ?」
「いや、なんだじゃなくてですね! なんでまたゲームやって、食って寝ての繰り返しなんだよ! 王を目指すんだろ? もっとこうさぁ!」
「そうはいうても。現状、余に政なんぞ回ってこんし、やることがないからなぁ」
もぐもぐとキッシュを食べながら、だるそうに話す王子。そして、
「それよりそなた」
ビシ! っと、こちらにフォークを向ける。
「途中から敬語が外れとるぞ? 別に今更構わぬが、外では注意せよ」
そう言うと、王子はフィーとのゴモクへ戻っていった。
そんな様子を見るアルヴィット。
(ははは……
やっぱり……やっぱり……)
「俺の人生詰んだぁぁぁぁ──────────!」
「うるさいぞ」
かくして本日も、壁さながら、不動の一日を送るのであった。
つづく!